数日前、ふと耳にした言葉に「うわっ」と引っかかる感覚がありました。いったん忘れかけていたのに、さっき不意に思い出したので、整理のために書き残しておきます。
ITという言葉が広まって以降、繰り返し語られてきた話でもあります(特定の誰かを指す意図はないので、内容は少し一般化して書きます)。
「今の時代、オープンな技術が主流だから開発や制作にかけるコストは抑えられる。技術者も余るほどいるし、起業するには最適な時代だよね。」
というお話。
こういう話を聞くと、つい「それ、少し論点がズレてないかな」と思ってしまいます。言い換えると、“一部は当たっているけれど、起業や事業づくりの現場感とは噛み合っていない”、そんな印象です。
開発コストは抑えられるのか
まず「オープンな技術が主流だから(云々)コストが抑えられる」という点。
確かに今の主流は、特定メーカーに依存しないオープン技術で、Linuxをはじめ、身の回りの多くはその恩恵の上に成り立っています。自分の仕事でも、扱うものの大半はオープン技術、あるいはそれを自分なりにカスタムしたものです。
ただ、ここで言われがちな「コストが抑えられる」が指しているのは、主に技術を手に入れるまで(調達・利用開始まで)のハードルだったり、あるいは“既存の手順をなぞって形にできる”領域の作業コストだったりします。
これは重要な前進ではある一方で、いわば「技術に使われる人」が担いやすい範囲の話でもあります。職域で言えば、実装・制作の現場を支える“コーダー”と呼ばれる領域(もちろん、その領域にも高い技量を持つプロがいるので、価値を下げる意図はまったくありません。あくまで役割の切り分けとして)
でも実際にビジネスとして成立させようとすると、多くの場合、“なぞったレベル”だけでは足りません。必要になるのは、状況に応じて設計を変え、選択肢を組み替え、リスクと速度のバランスを取りながら前に進められる「技術を縦横無尽に扱える人」。自分の言葉で言えば「技術を使う人」、一般に言うところの“エンジニアリング”の領域です。
特にスタートアップの立ち上げ期は、時間も資金も限られがちです。十分な余力がない状態で、役割のミスマッチが起きると一気に厳しくなる。だからこそ、事業を前に進められる「技術を使う人」を確保できるかどうかが重要になります。
そう考えると、現実には“技術を使える人”の市場価値は上がりやすい。結果として、「起業して何かを作り上げ、成功させるための総コスト」は、単純には下がっていない——むしろ上がっている面もある、というのが自分の結論です。
(以前から人材獲得競争が話題になるのも、こうした背景があるのだと思います。)
技術者は余るほどいるのか
結論から言うと、“役割によって状況が違う”だと思います。
「技術に使われる人」=一定の手順や枠組みの中で成果を出せる人、という意味では、供給が増えやすく、競争も起きやすい。
一方で「技術を使う人」=目的に合わせて手段を選び、組み合わせ、前に進める人は、簡単には増えない。そりゃ手放したくない、という話になりやすいです。
ここで一旦、言葉を整えるために自分なりの定義を置いてみます。
「使われる人」= Aという手段(この場合は技術)で“できる範囲”の中で目的を実現しようとする人。
「使う人」= 目的を実現するために、A、Bなどの手段を選択/組み合わせて実行する人。
さらに理想形として、
「創る人」= 目的のために、Cという新しい手段自体を生み出して、最短でゴールに到達してしまう人。
「使われる人」は、すでに世にある手段のうち、限られた選択肢を“自分の全て”として勝負しがちです。今は情報も教材も充実していて、多くの人が同じ条件で学べる。だからこそ、同じ土俵の競争が激しくなり、結果として市場価値が伸びにくくなることもある。これは個人の優劣というより、構造の話です。
一方の「使う人」は、行動の順序が違う。極論、目的を達成するためなら手段は選び直す。
そのために、手段をできる限り集め、必要なら学び、必要ならできる人を巻き込み、選択肢を並べて最適解を選ぶ、あるいは組み合わせて実現する——そういうスタンスの人です。
そして「創る人」は、さらに別次元。既存の手段に収まらず、「こうした方が一番いいよね」と手段そのものを発明・発掘してしまう。たとえるなら、車の性能競争をみんなが頑張っているときに、「空から行けばよくない?」と発想し、実際に形にしてしまうような人。
この「使われる」「使う」「創る」という切り分けは、技術業界だけじゃなく、いろんな分野に当てはまると思います。例えば、
アーティスト(アート)ならば、
「使われる人」 = 道具A(楽器、筆、カメラetc)で“できる範囲”を表現しようとする人。
「使う人」 =「これがやりたい」を実現するために、道具を選択/組み合わせて表現する人。
「創る人」 =「これがやりたい」のために、道具や表現方法自体を生み出す人。
ビジネスならば
「使われる人」 = 自分の能力やチャネルで“できる範囲”を実現しようとする人。
「使う人」 =「これがやりたい」のために、能力やチャネルを選択/組み合わせて実現する人。
「創る人」 =「これがやりたい」のために、概念やチャネル自体を作り、需給を生み出す人。
……みたいに。
そしてどの分野でも、「余るほどいる」状態から一番遠いのは、やっぱり「創る人」なんだろうな、と。
自分もそこを目指したいけど、道のりは長そうです(遠い目)。